コラム

見出し 人間スタビライザー
更新時間 2005/07/23 名前 よねやん
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 カメラは構えてシャッターを切るときに少なからず動く。当然、遅いシャッター速度で切ればブレた作品に仕上がる。よくカメラの基本を学ぶ時にたとえば50mmレンズだと1÷50≒1/60秒以上の速いシャッターを切ればブレにくいと教わる。200mmのレンズだと1÷200≒1/250秒という具合だ。

 最近はカメラ機材の性能が向上し、ブレにくいレンズが各社から発売されている。「手ブレ補正レンズ」と言ってニコンであればVRレンズ、キャノンであればISレンズと称して発売されている。内部でレンズがブレを打ち消すように動くという昔から考えると魔法のレンズのようなものである。 従来のレンズより約3段階分遅いシャッター速度を切ってもブレないとメーカーはうたっている。たとえば200mmのレンズで1/250秒で切るところを1/30秒で切ってもブレないことになる。このレンズの弱点は若干重量が重くなることと、価格が高くなることであるが作品の結果を考えると出費も仕方ないというところであろう。特に望遠レンズの場合はブレ抑制の効果が大きいのでお勧めである。

 今回はこの手ブレ補正レンズでおもしろい話があるので紹介しよう。カメラメーカーが新製品を開発する際にテスト機を報道カメラマンに貸し出して実地テストを行うことがある。以前に手ブレ補正レンズでも実地テストの依頼がカメラメーカーからあり、エースカメラマンがヘリコプターから空撮テストを行うことになった。機上からの撮影は振動が激しいために手ブレ補正レンズの効果が大きいだろうというメーカーの読みである。

 400mmくらいのレンズの場合、通常は1/1000秒位の高速シャッターでブレを防ぐのであるが、このレンズだと1/125秒でもブレない計算になる。実際に1/125秒で撮影したところ確かにブレない。「これはスゴイ」という話をしながら今度は手ブレ補正OFFにして撮影する。これがなぜかブレない。確かに手ブレ補正はOFFになっている。厳密に比較したところシャッター速度で1段半分くらいしか違いの出ないことがわかった。

 熟練したカメラマンはスゴイ。振動するヘリコプターの上でカメラを構えると無意識のうちに振動を打ち消すように微妙にカメラをコントロールしているのである。ブレないために力を入れてしっかり構えるというのではダメである。カメラをバランス良く持ち、手首を柔らかくしてカメラに振動が伝わらないように浮かせるように構えるのである。被写体が動いてもカメラが動いても常に自動追尾するので、それはまるで「人間スタビライザー」とも言える。

 この結果を見てメーカーががっかりしたのは言うまでもない。日ごろ手厚いサービスを提供してくれているメーカーだったので、少しヨイショしてもう少し腕の悪い新人カメラマンにでもテストさせるべきだったかも知れない。開発者が机上で考える以上の結果を熟練カメラマンはたたき出してしまうのである。