コラム

見出し レンズ設計
更新時間 2010/08/24 名前 よねやん
本文 ◇最近のレンズは性能が上がり、18?200mmのような高倍率ズームでも意外なほどクリアな描写をする。背景のボケ味や明るさなど多少の不満はあるが、一昔前の単玉レンズよりもシャープに写ったりするので驚きだ。昔はズームレンズといえば、仕方なくズーミングが必要な場面で使うだけで、基本的には何事も単玉だった。

◇昔、ニコンから43?86mmという比較的安価なズームレンズがあった。試しにそれをデジカメに付け撮ってみると、ソフトフィルターがかかったようなボケた描写で、今の基準から考えると使い物にならないほどひどいものだった。よくこのようなレンズを製品として売っていたと思う。

◇今と昔は技術的に何が違うか?それは「コンピュータによる計算」である。昔は凹レンズと凸レンズを組み合わせて、光がどのようにレンズ内で屈折するかを膨大な手計算で求めていたのだ。ニコンマンの話によると、数学課という部門が社内にあって、大勢の女性社員が一年中、レンズの屈折の計算を行い、それでレンズができあがったそうだ。1本のレンズで計算が半年から3年ほどかかったというのだから、桁違いの労力だったに違いない。ズームレンズになると、焦点距離ごとに更に計算が増えるので、難易度は更に高くなる。

◇今はコンピュータが複雑な計算を行ってくれるので、飛躍的に設計期間が短くなり、かつ性能が向上した。新人社員ひとりで1本のレンズが任されることもあるらしく、レンズ性能以外に使い勝手、コスト計算など、部品の供給、海外生産での問題など総合的に考え、性能が良くて儲かるレンズ作りを心がけなくてはならない。昔はとにかく性能の良いものを作って、価格は後から考えるような発想で良かった。それは計算のノウハウというのがマネしにくく、ニコンやキヤノンの独壇場になっていたからだ。それがコンピュータ計算できるようになると、シグマやタムロンなどのレンズメーカーが同じような製品を出せるようになった。

◇またコンピュータ計算により、非球面レンズを使用したレンズが発売されるようになった。通常は球面レンズといって、コンパスで書いたような円の一部の曲線の形をしたレンズが主流なのだが、複雑な曲線を描いた非球面レンズを使うと、ゆがみが少なく、高倍率のズームレンズが設計できる。これまではあまりにも複雑な計算のためと製造が難しいので、避けられる方向にあったのだが比較的安いレンズにも取り入れられるようになった。非球面レンズで拓ける世界は大きく、例えばメガネで牛乳ビンの底のようなレンズが昔はあったが、今はプラスチックの非球面レンズが主流なので軽く薄く像にゆがみの少ないものが安価で買える。

◇先日、中古カメラ店で50年前のライカのレンズの素晴らしさを力説している人がいた。「ソフトフォーカスの中に芯のある描写が素晴らしい」というものであるが、それは大きな勘違いだ。きっちりとした描写がレンズに求められるのであって、ソフトフォーカスは性能が悪いだけだ。逆に、ライカ風の描写など今の技術なら簡単なことだが、変り種のレンズは売れないのでビジネスにならないだけなのだ。設計は簡単になったが、ユーザーのニーズを的確につかみながら製品を出すという点において、現在の設計のほうが難しいと思う。



たまにマクロレンズを持って外に出るのも面白いものだ