コラム

見出し 投売りカメラ
更新時間 2012/12/23 名前 よねやん
本文 ◇囲碁の世界では棋譜を見ながら勉強しても、深い部分は対局者同士にしか分からないという。手順が分かっても、この場の雰囲気や思っていること、前回の対局からの流れなどが棋譜には現れないからである。今回はカメラの世界でも同様のことがあったので紹介したい。

◇ニコンからミラーレス一眼カメラ、ニコン1(ワン)V1が昨年の10月に発売された。広告も大々的に行い、作りも丁寧で非常にコストのかかったカメラだ。ブランド力維持のために、安物を出したと言われたくなかったのだろう、電子ビューファインダーを内蔵し、目の弱くなった人でもクリアに見える。メカニカルシャッターにもこだわり、なんとも言えないほどの官能的なシャッター音がする。そうだ歴代の名機ニコンF3のシャッターの感触に似ている。ただし多くの人が指摘する弱点もある。撮像素子が他社よりも小さく対角線が1インチ(13.2mm×8.8mm)しかないのだ。ソニー、キヤノン、フジの撮像素子はAPSーCサイズ(23.5mm×15.6mm)で面積がニコン1より3.15倍大きい。フィルムで言うと35mm版とブロニー版で違うように、撮像素子が大きくなるほど画質に有利と言われている。その中でニコンはあえて小さな撮像素子で勝負に出たわけだ。

◇最初筆者は、カタログを見て撮像素子の小ささに失望してしまった。売れているD7000、D5200などのAPS-Cサイズの一眼レフとバッティングしないようにあえて小さな撮像素子で出したという噂話まで出回った。噂の真意は分からないが、ニコンの関係者に「1インチCMOSでは従来のニコンファンが画質面で満足しないのでは?」と言ったことがある。ニコン製品は大体出るとすぐに買っているが、ニコン1だけは設計思想に納得できないので買わないことにした。

◇発売から1年を経たこの11月になり大きな変化が起きた。新機種のV2が発売になり、旧いV1が叩き売りされているのだ。1年前は10万円近くしていたレンズキット(10mmの薄型レンズ付き)が3万円ちょっとだ。この10mmのレンズは設計者が自画自賛するほど良いできで、レンズ単体でも2万円ほどで売られている。そうするとボディは1万円ちょっとという計算になり、どう考えても安いのだ。オリンパスやソニーなど別売りの電子ビューファインダーだけで3万円ほどする。さらに後押しするようにカメラグリップ、皮製ケースなど17000円相当の付属品がキャンペーンでおまけに付く。想像だが、3月期末に在庫をかかえたくないのだろう。損しても売り切るという感じだ。

◇画質的には不安があったが、3万円という枠の中で考えると最も高画質というおかしな位置づけのカメラになった。あまりにも安いので2セット買うことにした。10mmの薄型レンズキットと10?30mmと30?110mmのダブルレンズキットを買い、レンズ3本とボディ2台が8万円弱で揃った。ちなみに新型のV2はデザインが悪く、シャッター音が安っぽいので人気が無い。V1がプロのサブ機ならV2はハイアマチュアの趣味のカメラという感じだ。

◇早速テストで撮影してみると、想定外の画質の良さに愕然とした。さすがにフルサイズのD600などと比べるのは酷だが、一昔前のAPS-CサイズであるD300位と比べても負けない性能なのだ。色味に関しては画像処理エンジンが進化して、最新のD600と同じだ。使い込むにつれて見えていなかった設計者の深い考えというのがハッキリとした。

◇ニコンの設計者はAPS-Cサイズより小さく、解像度で満足できる撮像素子のサイズを1インチと考えたのだろう。サイズを小さくするメリットとして、レンズ設計に大きく自由度が増した。つまり「安く」「軽く」「超高性能」なレンズが設計しやすくなり、撮像素子で解像度が不利になる分を、レンズの超高性能化で補い絶妙なバランスを保っているのだ。ちなみに銘玉である10mmが1万8千円、18.5mmが2万2千円という安さだ。まだレンズのラインナップが6本と少ないが、今後増えるのが楽しみだ。例えば75mmF1.8なんてレンズが4?5万円で出せるかも知れない。フルサイズでそれに相当する200mmF2あたりは50万円ほどする。これは大きな技術革命だ。

◇とにかく凄いカメラを出したものだ。残念ながら良さがユーザーに分かってもらえず、今は投売り状態だが、トータルでのバランスの良さが再認識される日も近いだろう。ニコン以外のミラーレス一眼は、大きな撮像素子を採用し、大きな望遠レンズを付けると頭(レンズ)でっかちの非常にバランスが悪いものになってしまった。ニコンはレンズが小さいので非常にバランスが良い。オリンパス、パナソニックあたりが一番売れているようだが、ニコンの設計思想には深いものを感じる。残念ながら購入者はカタログを見て買うのでその良さが伝わっていない。カメラに理解があり、その良さを感じる自信があるならお勧めだ。ちなみに先日、新橋のヤマダ電機で毎日16時から行われるタイムセールでは、10mmの薄型レンズキットが29800円だった。アマゾン、価格コムも安い。さあ走れ。


ニコン1V1 10mm ISO400で撮影
画面の隅まで流れずに結像する



ニコン1V1 10mm で撮影
露出も正確でハイライトのねばりがある



ニコンD600 180mm で撮影
立体感ではフルサイズが勝るが、悲しいかな2Lプリントくらいでは
その良さが伝わらない